和歌山県NIE推進協議会会長
和歌山大学教育学部教授

船越 勝

 昨年3月末に、新しい学習指導要領が告示され、資質・能力を明確化し、育んでいくという方向付けがなされました。新しい学びが今求められています。ところで、学校での学びとは、教科書を基本的な教材として、公定された知識とスキル、態度を身につけていくという営みを意味しています。そこで用意されている知識は、学校での学びが公教育として行われているところから、日本のどの都道府県の子どもたちにとってもわかりやすい、普遍性・汎用性の高いものになっています。しかし、その反面、子どもたちの生活や経験から乖離された抽象的な知識、すなわち、脱文脈的な知識という特質を持っています。教育学や認知心理学では、こうした学校で学ぶ知識のことを「学校知」と呼んできました。しかし、たとえば、同じ「畑」という知識であっても、日常生活のなかに全く畑の存在しない大都市に生活する子どもにとっての「畑」と、大規模経営の農業を行っている地域の子どもにとっての「畑」と、中山間地で家族で食べるものだけを生産している家庭の子どもにとっての「畑」では、全くその意味やイメージは異なります。このような日常生活のなかで自然と身につけていく知識のことを「日常知」、あるいは「生活知」と言います。
このようにとらえると、学校での学びとは単純に「学校知」を伝達するということではなく、子どもたちの「日常知」や「生活知」と「学校知」とのギャップを前提にし、両者を重ね合わせ、摺り合わせながら、「生活」と「科学」が統合された新しい知を獲得していく営みであり、また、それを世界や地域の現実に当てはめ、活用したり、未だ「答え」のはっきりしていない事象を探究していく行為だということができるでしょう。
NIE(Newspaper in Education、エヌ・アイ・イーと略称)の実践は、「学校などで新聞を教材として活用すること」から出発しますが、新聞は世界や地域の現実の宝庫です。新聞を補助教材として授業に取り入れることは、子どもたちに世界や地域との「出会い」と「対話」の場を用意することであり、「日常知」「生活知」と「学校知」との相互作用を促し、新しい知と学びを創造していくことにつながっていきます。こうした営みが子どもたちに今求められる確かな資質・能力を育んでいくことにもなるのだと思います。
新しい年を迎えるにあたり、さらに和歌山県全体にNIEの取り組みを広め、子どもたちに質の高い学びと学力を身につけていって欲しいと願っています。関係の皆様のいっそうのご協力をよろしくお願い申し上げます。