「信頼してもらうための新聞づくり」

読売新聞和歌山支局長・湯川大輔

 6月に和歌山支局長として赴任しました。支局長の重要な仕事の一つに毎年、支局に配属される新人記者の育成があります。
 新人記者は本社で1か月半ほど研修を受けた後、支局に着任したその日から現場に行って取材し、記事を書きます。取材のジャンルは事件や事故、高校野球など様々です。どんな原稿でも手直しする際に、私が新人記者に繰り返し伝えていることは、「きちんと事実確認をしているのか」「思い込みで書いていないか」ということです。事件の概要や被害者の名前が間違って記事になれば、名誉や人権を傷つけることになるからです。

 フェイクニュースがネットを中心に拡散する中で、新聞の強みは正確性だと思います。和歌山県内で死者9万人の被害が想定されている南海トラフ巨大地震が発生した際には、被災状況を報じることで人命を救える場面も出てくると思います。そんな非常時にも新聞は正しい記事を伝え続ける責務がありますが、その前提として、読者に記事を信頼してもらわなければいけません。
 ありがたいことに、新聞の信頼性には、多くの人から強い期待が寄せられています。読売新聞社が今秋に行った世論調査では、新聞が事実を「正確に伝えている」と思う人は7割を超えています。
 一方、ネットの情報は玉石混淆です。スマートフォンを使えば、いつでも手軽に、自分が欲しい情報が手に入ります。その反面で、フェイクニュースをつかまされる危険性もあるのです。実際、2016年の熊本地震では、「動物園からライオンが放たれた」というデマをSNSに投稿するなどしたとして、会社員の男が警察に逮捕されました。今年のコロナ禍でもネット上に根拠のない中傷の書き込みが相次ぎ、社会問題となっています。
 若い人には「NIE(教育に新聞を)活動」を通じて、正しい情報を学びながら、フェイクを見抜く目を養ってもらえればと思っています。

 先日、和歌山県NIEオンライン実践報告会に参加し、県内の小中高校の取り組みを見てきました。海南市立東海南中では、読売新聞の一面のコラム「編集手帳」を活用してくれています。生徒に自宅で音読と書き写しをしてもらい、「時事問題やニュースに関心を持つ生徒が増えた」との報告がありました。ほかにも、同じ記事にそれぞれが見出しを付けた後にみんなで品評しあうなど、工夫を凝らした取り組みが多く、感心しました。
 報告会の後、発表者の小学校の男性教諭の一人から、こう頼まれました。「新聞記事には難しい言葉や表現が多いんです。なるべく子どもたちにもわかりやすい記事をお願いします」。新たな宿題をもらいました。これからも、子どもたちに楽しく読んでもらえる新聞づくりを心がけていきたいと思います。

「信頼してもらうための新聞づくり」湯川大輔・読売新聞和歌山支局長【2020年11月】 

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