「老舗食堂」の悩み

毎日新聞和歌山支局長・勝野俊一郎

 新聞はどうしてこんなに読まれなくなったんだろう。7月に開かれた「県NIEオンライン実践報告会2021」に参加し、改めて考えこんでしまいました。子供たちに新聞への興味を持ってもらおうと、先生方があれこれ苦心されている話を聞いていると申し訳ない気持ちにすらなります。

 現在の新聞社は老舗食堂に例えることができるかもしれません。先代から受け継いだ味を大切に守っているのに客足は減る一方。「おいしくて体にいいものを」とあれこれ考えても特に若い人がほとんど来てくれない。このままでは立ち行かなくなるのは目に見えている。料理の味を変えるか、新メニューを考えるか、いっそテークアウトを重視すべきなのか――。

 「情報を得るにはインターネットで十分」「テレビの方が分かりやすい」「新聞を読むのは面倒くさい」。こんな意見も分かるのですが、でも私はやはり、新聞には新聞の良いところがあると言いたいのです。

 ジャーナリスト・池上彰さんと作家・佐藤優さんの共著に「僕らが毎日やっている最強の読み方」(東洋経済新報社)という本があります。さまざまな分野に精通していることで知られる2人が、どのように情報を収集しているか説明しているのですが、池上さんは「まず新聞で日々のニュース全体を捉え、ニュースで気になるテーマがあれば、書籍で深掘りしていく」と書いています。佐藤さんも「新聞が『世の中を知る』ための基本かつ最良のツール」と同意します。

 新聞は、政治や経済から事件・事故、スポーツ、地域のイベントまで多種多様な出来事の中から「これは知ってほしい」というニュースを選んで紙面で紹介しています。それを全部理解しようとすれば大変な作業になりますが、見出しだけでも順に読んでいけば、世間で何が起きているか、おおまかにはつかめます。

 この点、自身を振り返っても、ネットで読むのはどうしても関心がある分野が多くなりがちです。例えばニュースサイトの記事を読んだ後、関連記事がたくさん表示される機能はとても便利なのですが、一覧性という意味ではやはり新聞に軍配が上がります。新聞をきっかけに、これまでまったく興味がなかった新たな分野を知りたくなる、そんな経験が私には何度かあります。

 新聞離れと指摘されて久しいですが、スマホを手に検索サイトで知らない言葉を調べ、SNSで情報を収集している人たちの多さを考えると、「新しいことを知りたい」「分からないことを理解したい」という欲求は昔も今も変わらないのではないでしょうか。ネットで話題になっている記事の情報源が、たどっていくと実は新聞だったというケースもよくあります。だからこそ、情報を得る手段の一つとして新聞も選択肢に入れてほしい。そして、新聞記者が手間をかけて取材し、読者に向けて送り出した記事を直接読んでほしいのです。

 もちろん、私たちもこのままでいいと思っていません。いつか店にお客さんが帰ってくるように、もう一度おいしいと言ってもらうために。今後も何が必要か考え続けます。

「『老舗食堂』の悩み」勝野俊一郎・毎日新聞和歌山支局長【2021年11月】

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