和歌山NIE推進協議会会長
和歌山大学教育学部附属小学校長/教授
船越 勝
私の一日は、毎朝、新聞を読むことから始まります。忙しい仕事のなか、早朝の午前4時や5時は、家族の誰も起きていないので、誰に遠慮することなく、自由に時間を使うことができます。バイクの音がして、新聞受けにガタ、ゴトと新聞が落ちる音がすると、新聞を取りに玄関まで降りていくこともあります。そして、コーヒーを飲みながら、あるいは、通勤電車のなかで、私と新聞の対話の時間が始まるのです。これは、私が子どもの頃から変わらぬ生活習慣です。
こうした40年以上の新聞との変わらぬつきあいのなかで、私は新聞を読むことには次のような豊かな教育的可能性があると考えています。
第一は、ことばの力と言語センスが身に付くということです。ことばの力や計画的に習得しにくいと言われる言語センスを身に付けていくためには、何よりも正しい日本語とそれによる美しい文章をたくさん読むことが大切です。「まねぶ」ことによって「学ぶ」ということです。「学ぶ」は「まねぶ」と同源であり、「真似る」とも同じ起源だといわれます。新聞は、毎日発行されるので、毎日多くの正しい日本語による文章を読むことができ、それを真似ることによりことばの力や言語センスを磨いていくのに適しているのです。
第二は、考える力が身に付くということです。新聞が記事として切り取ってきた生活現実には、様々な問題が含まれており、だからこそその問題をどのように解決していくのか読みながら考えざるを得ないわけであり、そのことがさらに表現の力を育んでいくのです。
第三は、当事者としての判断や価値観・態度の形成につながっていくことです。新に18歳選挙権が実現され、主権者教育の重要性が指摘されていますが、新聞を読むことは主権者としての判断力や価値観・態度を生活現実に即して形成していくことになるのです。
このような新聞を読むことから出発し、それを教材として活用したり、新聞づくりなどの文化創造に転化させる教育装置であり、「教育的しかけ」をNIEと言ってきたのです。
今年度も和歌山県でNIEの様々な取り組みが豊かに展開されることを願っています。
「第7回 いっしょに読もう! 新聞コンクール」の受賞者に賞状を渡す船越会長