「新聞に触れる」

時事通信和歌山支局長 小山内康之

             
 日本新聞協会は毎年、新聞の接触状況や評価を分析するため、「新聞オーディエンス調査」を発表しています。直近の調査によると、新聞に毎日触れている人は50.6%に上る一方、新聞に普段はまったく触れない人は25.0%でした。この数字の評価はさておき、小生の新聞との接点、関わりを振り返ってみたいと思います。

 記憶に残る新聞との最初の触れ合いは、小学校低学年の図工の授業です。紙粘土を作ったり、机が汚れないように敷いたりと最初は読む対象ではありませんでした。各生徒が持ってくる新聞を見て、いろいろな新聞があるんだなと気付きました。当時、わが家は全国紙と経済紙を購読していました。経済紙の朝刊は父親が通勤時に電車内で読むため家にはないとの事情もありましたが、母親が「経済紙はチラシが少ない」と不満を漏らしていたのを覚えており、スーパーなどの特売情報を得る側面もあったと思われます。
 次の接点は学級新聞。担任の先生がマスコミに落ちて、教職に就いた経緯もあり、見出しのつけ方、記事の構成などに加え、「最初に大事なことを伝える」といった実践的な指導もしてくれました。班ごとに優劣を競いましたが、残念ながら小生が足を引っ張ったのか、わが班は最下位でした。

 担任の先生に洗脳されたのか、報道業界を志し、通信社の記者になりました。配属された記者クラブでは記者にお茶やコーヒーをだしてくれたり、コピーをしてくれたりする世話係りの女性がいました。ある日、「ひとつだけ嫌な仕事がある」と打ち明けられました。彼女は毎日、新聞受けから各紙を抜き取り、記者クラブに届けてくれていましたが、「新聞に触れると手が汚れる」と。専用の手袋をプレゼントしました。軍手で済まそうと思いましたが、汚れが目立つので柄物の手袋にしました。

 プレゼントには前段がありました。その記者クラブを設けている団体は通信社とは記事の配信契約は結んでおらず、共同通信社と弊社(時事通信社)の記事は読めませんでした。各紙の記者と同じように原稿は出稿していたんですが、彼女は共同と時事の記者は原稿を書かずにサボっていると思い込んでいました。それを指摘され、共同の記者とむきになって反論してしまいました。そのお詫びも兼ねたプレゼントでもありました。

 昨年5月に和歌山支局長となり、新聞に触れる時間は格段に延びました。現場の記者時代は先輩の記者から「新聞を読む暇があったら取材先を回れ」「新聞読んでても、特ダネは生まれん」などと記者クラブを追い出され、デスク時代は原稿の校正・処理、整理部との調整に追われ、主に担当分野の記事しか読めませんでした。新聞にはいろいろな情報が載っています。和歌山支局内で「警察ネタは相変わらずS紙が強いな」などとぼやきながら、気がつくと指先を中心に手が汚れていました。小生には手袋は必要ありません。石鹸を付けて洗えば手はきれいになります。新聞と触れ合うことができる仕事に就けて本当に良かったと思います。
 

「新聞に触れる」小山内康之・時事通信和歌山支局長【2018年5月】

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