「新聞はつまらないか」

読売新聞和歌山支局長 松本航介

 上の息子は今年、中学2年生になる。成績はまあまあ。陸上部でマラソンを頑張っている。今どきの子どもらしく、スマホには熱心だが、新聞はあまり読まない。なぜ読まない。理由を聞いてちょっとショックだった。「読んでも面白くないし…」だそうだ。
確かに新聞は難しいことばかり書いてある。だけど、そんな寂しいことを言わないでほしい。いいところだってたくさんあるのだ。せっかくだから、一緒に考えてみようじゃないか。

新聞をぱらぱらとめくると、たくさん人の名前が載っている。一体何人の名前が載っているのだろう。元日付の読売新聞で数えてみた。544人もいた。
当然、その中にはいろんな人がいる。有名どころでは小泉進次郎さん。政治面に写真つきのインタビューが格好良く載っていた。一方、無名の人もいた。運動面に、年末の全国高校サッカーでシュートを決めた選手たちの名前があった。みんな名前しか載っていない。でも、ここに載るまでにはたくさんの練習に耐えてきたのだろう。この1行1行には選手たちの汗と涙が詰まっている。
新聞にいろんな人が載っている中で、少し前になるが、印象に残った記事がある。「イグ・ノーベル賞」という賞をもらった大学教授の記事だ。人間に備わった「知覚」という働きを何十年も研究してきた人だ。テーマが地味なせいか、それまでほとんど賞をもらったことがなかったそうだ。記事では「流行に流されず、自分の好きなテーマを研究し続ける根気が大切」と語っていた。周りから注目されようがされまいが、地道な努力を続けるというすてきな人生がある。記事からそんなことを学んだ気がした。
いいところ一つ目。新聞を読むと、いろんな人の人生を学ぶことができる。「人生の参考書」などというと大げさか。

かつて、瀬戸内海のある島を取材した。人口200人足らず。若い島民がどんどん都会に出て行ってしまい、このままだと島は住む人がいなくなってしまう。
島は20年前、都会からの移住者を募った。新聞に広告を出して呼びかけ、移り住んできた人には家を提供した。その結果、多くの家族が移り住んできた。
ところが、何年かすると、ほとんどの家族が島での生活をあきらめ、都会に戻ってしまった。島には病院もない。買い物する店もない。あまりに不便だったからだ。そんな悲しい現状を連載記事で紹介した。
島を、自分のふるさとに置き換えて考えてみてほしい。例えば、和歌山県のどこかの田舎。自分ならどうするだろう。都会へ出て行くか。田舎に残って頑張るか。都会に移り住んで、都会から田舎を支援する手もある。記事は、ふるさとへの様々な向き合い方を考えるきっかけにしてほしい、との思いで書いた。
いいところ二つ目。新聞を読むことは、ふだんあまり考えることのない何かを考えるきっかけになる。

ちなみに、「読まない」という我が家の彼も、中高生新聞(読売新聞が発行する中高校生向けの新聞)は熱心に読んでいることを、私はひそかに知っている。小学生の頃は、お父さんの書いた記事を見つけるたびに切り抜いてノートに貼って遊んでいた。
全く関心がないわけじゃない。たとえ今は面白くなくても、なんとなく気になった記事を切り抜いて貼り付けておけば、いつか役に立つ日が来るかもしれない。
新聞はあせらず気長に読んでもいい。いいところの三つ目は、少しアドバイス。

「新聞はつまらないか」松本航介・読売新聞和歌山支局長【2019年1月】

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