「毎朝のお楽しみ」

産経新聞和歌山支局長  栗川喜典

 新聞で真っ先に目を通す面はどこですか。1面?社会面?地域面?政治面?経済面?国際面?運動面?生活面?それともテレビ欄?いろんな読者の関心に応えるように様々な分野の記事を掲載している新聞は例えるなら、容器のサイズ(毎日のページ数)は一定で、おかずや盛りつけ(独自ダネの有無やニュースの扱い、見出し、写真、図など)が日々異なる日替わり弁当のようだと私はよく説明することにしている。

 さて、そんな記事とは別に、私が毎朝読むのを楽しみにしているのが新聞小説だ。ベテランから新進まで多くの人気作家の新作を真っ先に読めるのはうれしい。現在連載中の一押しは、髙村薫氏が毎日新聞に執筆している「我らが少女A」。ヒット作「マークスの山」「レディ・ジョーカー」などに登場した刑事、合田雄一郎が警察大学校の教授となっており、東京郊外で起きた殺人事件をめぐって過去と現在が交錯する…。改行が少なく、びっしりと詰まった文章に引き込まれ、続きを早く読みたくなってしまう。合田といえば、髙村氏が日本経済新聞に連載していた「新リア王」に登場した際も驚喜したものだ。

 こうした人気作品のキャラクターが新聞小説の新作に登場するのを見つけるのも、醍醐味の一つ。最近では、池井戸潤氏が杏さん主演のドラマ化の人気を受けて新作を読売新聞に連載した「花咲舞が黙っていない」に、池井戸氏の別作品の主人公でドラマにもなった半沢直樹が登場するサプライズもあった。弊紙・産経新聞でも以前、宮部みゆき氏のヒット作で映画化もされた「模倣犯」に登場したフリーライター、前畑滋子が主人公となった後日譚的位置づけの「楽園」が連載されたことがあり、熱心に読んだ。

 自身が中学生のころは、新聞小説ではないが自宅で購読していた産経新聞に人気漫画家、松本零士氏の新作「1000年女王」が連載されており、毎日切り抜いてスクラップして読み返すほどのお気に入りだった。これにも人気作「銀河鉄道999」とつながる内容が描かれ、小躍りしたものだ。大人になって新聞小説をスクラップすることはないが、新聞記事とは違うプロの作家のリーダビリティ(引き込まれる文体や表現)に学ぶべき点も多い。連載終了後に単行本化される際に加筆・修正された部分を確かめる楽しみもある。

 また、新聞小説には大人の世界を垣間見せてくれる一面もある。かつて日経新聞に連載された渡辺淳一氏の「失楽園」は濃厚な性描写でビジネスマン諸氏を夢中にさせた。その日経新聞では現在、来年のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」の原作者、林真理子氏による新作「愉楽にて」を連載中だ。こちらも男女の艶やかな関係が濃厚に描かれており、若者たちも興味があるなら、こっそり読んでみてほしい。教育関係者のみなさん、ここでどうか目くじらを立てないでいただきたい。これも新聞を通じて知る世の中の一端であり、人間の多面性を学ぶ機会でもあるのだから。谷崎や乱歩の作品にも確か、眉をひそめるような描写があったはず。などと自分に言い訳しながら、今朝も私は新聞小説を読みふける。

「毎朝のお楽しみ」栗川喜典・産経新聞和歌山支局長【2017年12月】

投稿ナビゲーション